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元新聞記者による辛口コラム・エッセー、イラストと写真です。ご意見ご感想をお気軽にお待ちしています。(記事・画像の無断転載と無断複製・配布を堅く禁じ、万一発見した場合しかるべき処置を取ります)
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本音のコラム/アメリカ映画「黄金の腕」に見る依存症文化の厚み
 薬物依存をテーマにしたアメリカ映画に、「黄金の腕」(1955年、オットー・プレミンジャー監督)という作品がある。同名小説の映画化で、薬物依存症者が再起を目指すものの誘惑に負け、人生に絶望する姿を描いた社会派ドラマだ。主演のフランク・シナトラが禁断症状に苦しむ麻薬中毒者を熱演している。エリノア・パーカー、キム・ノヴァクら往年の洋画ファンには懐かしい女優陣が共演している。初めて映画音楽にモダン・ジャズが本格的に取り入れられた先駆けの作品としても評価を受けた。当時としては珍しく真正面から薬物依存問題を扱い、完成度が高い依存症問題の古典作品といえるだろう。そのストーリーは――▼"黄金の腕"の異名をとる名うてのポーカー賭博ディーラーの主人公(シナトラ)は、治療施設で6カ月の療養生活を終え、車いす生活の妻(パーカー)が待つ故郷の町に戻ってきた。依存症を克服してジャズドラマーとして新しい人生を目指そうとするが、彼を引き留めようとして妻や売人らが足を引っ張る。その結果、またクスリ(ヘロインか?)と賭博生活に舞い戻り、ドラマーへの道も閉ざされていく。それを必死で救うのが、彼に好意を抱く酒場女(ノヴァク)だ。物語は妻の自殺という悲しい結末によって愛のない結婚に終止符が打たれ、クスリや賭博から自由になり、主人公の殺人容疑も晴れ、絡み合った問題が解決に向かう…▼僕が気にいったのは、この映画の人間理解に対する深い洞察だ。題名の「黄金の腕」は依存症治療の一貫で覚えたドラマーとしての手腕と、カード賭博の札うちの凄腕、クスリを打つ悪魔の腕の3つを暗示している。映画ではこれに3つの「愛」を対照させている。主人公は自らの飲酒運転による事故で妻を半身不随にしたと思い込み、重い責任を感じている。彼は懸命に妻に寄り添うことが愛だと思っている。しかし、妻は既に治っており、彼をつなぎとめようと車いす生活を演じる。心がすっかり荒れている妻は、事あるごとに彼に毒づく。これは偽りの愛だ。これとは対照的に天使のような酒場女が彼に献身的な愛を捧げる。ここにあるのはプラトニックな純愛だ。これらを薬物問題に絡ませることで一層、人間の内面の複雑さを掘り下げている▼それにしても依存症治療の先進国アメリカである。今から60年近くも前に、この問題を映画化しているのだから驚く。(公的)治療施設から戻って古巣に戻った主人公は友人や地元の人たちに回復の努力を称えられ、温かく迎えられる。現実には、たった半年の治療で回復の歩みは難しいと思われるが、そこは物語としての映画作品。依存症に対するアメリカ文化の厚みを感じさせる。「1回でもやれば元に戻ってしまう」「同じ環境に戻れば、またヤクに手を出すだろう」「クスリに手を出した人間には心に弱さを抱えている」「人間は誰でも何かにすがっていないと生きていけない」「最後の1回は永遠に続く」―など各場面の名セリフに依存症の本質がうたわれている▼何やら今回は映画批評みたいになってしまったが、では翻って我が日本ではどうか。昨年夏頃から「シャブ&ASKA」などと週刊誌で盛んに書きたてられたミュージシャン、ASKA容疑者が覚醒剤取締法違反容疑で逮捕された事件は例によってメディアの過熱報道が続いた。のりピー(酒井法子)の時もそうだったが、有名芸能人による薬物絡みの事件はニュース番組だけでなくワイドショーにとって格好のネタになる。でも、ダルクサポーターからすれば、社会正義を盾にこれでもかと襲い掛かる報道姿勢にはうんざりだ。ASKA事件を語るには一言で足りる。「薬物は人を選ばない。社長であろうとホームレスであろうと、薬物と出合ったことが不幸なのだ」(日本ダルクの近藤恒夫さん)と。もはや立派? な薬物依存症のASKA容疑者がもうすこし早い段階でダルクにつながっていれば、と悔しい気がする▼法治国家において刑事責任が問われるのは当然だとしても、ダルクのスタンスからは単純自己使用には刑事罰を与える以上に福祉医療のケアを優先させるべき、となる。この映画のように、米国では有名人が薬物問題でつまづいても治療施設で回復し社会復帰すれば、その努力を歓迎する風土が根付いている。世知辛いことに日本では、社会防衛を盾に落伍者のレッテルを張って終わり。異端者扱いし、後の更正は自己責任だとして治療せずに地域に放り出す。失敗を許さない社会風潮にあって、人気商売の芸能人であればなおさら"落伍者たち"が集うダルクにつながることは難しい。この国では芸能人向けのダルクは夢のまた夢なのか。
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