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茨城ダルク21周年記念フォーラムから~レベルアップした和太鼓演奏/10年超えるキャリアで自信と誇り
 和太鼓が仲間たちの自信と誇りに―。今や県内外の地域イベントで出演要請の多い茨城ダルク(結城市上山川、岩井喜代仁代表)の和太鼓演奏グループ「愛染太鼓 喜組(よろこびぐみ)」。依存症の回復に太鼓演奏プログラムを採り入れるダルクが増えているが、茨城ダルクは走りの一つ。10年を超える取り組みで、すっかり市民権を得た。先月、同市内で開いた21周年フォーラムでは見事な舞台パフォーマンスを演じ、回復に向けた効果の一端をうかがわせた。同フォーラムを手掛かりに、根の深い依存症問題に目を向けた。

 ◆「本当の意味で大変な時代が来る
 フォーラムは入寮者の回復ぶりを公にする年に一度の施設最大イベント。会場の結城市中央町の結城市民文化センター・アクロスには、家族や支援者、各地のダルクから延べ約400人が参加した。フォーラムが開かれた7月21日は、奇しくも参院選の投・開票日。夜のテレビは「安倍首相率いる自民党が圧勝」を報じた。
 岩井さんもフォーラムの講演で、安倍政権が進めている生活保護見直しについて触れ、「これから本当の意味で大変な時代が来る」と警鐘を鳴らした。生活保護は薬物やアルコール依存症の回復にとって、命綱となる大事な制度だ。全国のダルク入寮者の8~9割が受給しているだけに、保護費削減は文字通り“身を削る”ことになり、回復活動を危うくする。
 それでなくても薬物やアルコールを代表格とする依存症者には、世の中の誤解と偏見がぬぐえない。世間からすれば「ヤク中」「アル中」の落ちこぼれ、ダメ人間にすぎないからだ。「好きでクスリを使い、飲んだくれて依存症になったのだから、自己責任で治せ。家族が面倒を見るべきだ」という世論の風潮は否めない。国の借金が膨らむ中、「なぜ依存症の治療に税金を使うのか」の否定的な空気が広がっている。
 これに鋭敏に反応したのが、日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長だった。フォーラムでも橋本代表の発言を援用して、「これからは『なぜ覚せい剤を勝手に使って、犯罪を犯して、そいつら(依存症者)を税金で面倒を見るのか?』と言いだす人がどんどん出てくる」と岩井さん。昨年来からの“生活保護バッシング”は、8月からの生活保護基準額引き下げ実施という“結果”をもたらしたが、ますます「アル中、シャブ中にナマポ(生活保護制度の蔑称)を適用するな」という声が上がることを懸念した。

 ◆ダルクの懐の広さに救われて
 フォーラムでは何人かの依存症者が、厳しい実体験を語った―。
 アルコール依存症のリョウさん(39)=仮名=は、沖縄にスタッフ研修に行った際に酒を20本飲んでしまったという。2年半のクリーン(断酒)期間があったが、スリップ(再飲酒)してしまった。「以前は3時間断酒すると苦しくなった。1年くらいクリーンを保ててからは楽になった。2年半もクリーンを保てたのは、最初の頃に比べれば、自分には大事な時間だったと思う。すべってもやり直そうと思えたのがプラス」とやり直しを決意し、講演時点で1カ月と20日のクリーンが続いているという。
 茨城ダルクスタッフの1人は「15歳の時にシンナーを使い始めた」と明かした上で、ダルクにつながるまでに約15年間使用したという。その間に精神病院に5回入院し、刑務所にも収監された。精神病院での診察の際に「頭に物が降ってくる」という幻覚に襲われ、同行した警察官にヘルメットを要求し、ヘルメットを着用して診察したという。
 刑務所収監中は簿記を勉強し、ダルクにつながってからも勉強を続けた結果、昨年11月に簿記2級に合格した。「クスリを始めたのも仲間なら、止めたのも仲間。今まで15年間できなかったことが、20カ月でできるようになったのは仲間のおかげ」と仲間への感謝を何度も口にした。
 いずれも世知辛い世の中にあって、何度も失敗を認めるダルクの懐の広さに救われていることを印象づけた。

 ◆生きづらい社会が背景に
 労働・生活問題の取材と並行して、昨年からダルク取材を始めたという若手記者からは、「生きづらい社会が依存症者を生んでいるんじゃないんですか?」と、疑問を投げ掛けられた。この記者は労働・生活分野の取材で「生きづらさ」を抱える“失われた20年”を生きてきた若者たちの姿を見ながら、依存症者との共通点を意識していた。
 腕に「リストカット」跡を残した20代の元中華料理チェーン店従業員の女性は「“こうしなければ”と無理やり合わせる社会ではなく、リストカット経験者でも受け入れてくれる社会が必要」と力説した。
 同じように「生きづらさを感じている」という筑西市の無職男性(31)は、5年前に結城市内の工場のアルバイトをリストラされて以来「就職したいという気持ちがあっても企業に落とされまくった。失業して自分の人生に絶望した」と述べた。数年前からうつ病に掛っていることを明かし、「働いていない人だって生きる権利はある。むしろ失業して生活保護受給の人が増えている現状を見つめるべき」と、生活保護バッシングを強く批判した。
 茨城ダルクが発行する啓発パンフレット「薬物を使わないためのメッセージ」に、「薬物を使い続けたら何が無くなるか」と回答で▽夢▽希望▽未来▽必ず1人ぼっちになってしまう▽一度使ったら使わない自由は無くなる―と示されている。使い捨ての雇用と労働の末に社会から排除された彼らは“辛うじて”依存症の世界に入ってはいないが、ふとしたきっかけで薬物、アルコール、処方薬依存の世界に入ってもおかしくないギリギリの状況下に置かれている。
 また「ゲートウェイ依存症」とも称される「ネット依存」の疑いがある中高生が全国に約51万8000人おり(厚生労働省研究班発表)、そのうちの何割かが「現実世界のドラッグ」に手を染める可能性もある。

◆自尊心を取り戻す和太鼓演
 フォーラムでは、茨城ダルク喜組の愛泉太鼓演奏をはじめ、女性シェルターのエイサー(琉球太鼓)、富山ダルクの岩瀬太鼓「海岸組」、そして茨城ダルク太鼓の原点となった「愛泉幼稚園・愛泉童子太鼓」の演奏、と4組にわたる太鼓演奏が披露された。
 中でも茨城ダルクの愛染太鼓は、スタート当初は愛泉幼稚園児の手助けを借りて何とか形にした程度だった。しかし、今や10年以上のキャリアを積み、音の出し方だけでなく「見せる」舞台としてもレベルを上げた。岩井さんは「地域に出て太鼓をたたくことは回復につながる」と、依存症からの回復に役立つことを強調した。実際に入寮者の太鼓演奏の様子を見たが、表情から自信が見られ、失った自尊心をゆっくりとだが着実に回復しつつあるように思えた。

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P/太鼓を演奏する「茨城ダルク喜組」=結城市中央町の結城市民文化センター・アクロス
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