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元新聞記者による辛口コラム・エッセー、イラストと写真です。ご意見ご感想をお気軽にお待ちしています。(記事・画像の無断転載と無断複製・配布を堅く禁じ、万一発見した場合しかるべき処置を取ります)
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ダルクの視点で考える教員の薬物事件/罰を課すより医療、福祉のケアを
 先頃、県立特別支援学校に勤務していた県南の男性教員(43)が覚せい剤取締法違反(使用)で逮捕、起訴された事件。教育関係者や保護者らに衝撃を与え、県教委は判決を待たずに被告の男性を懲戒免職処分とした。今後は裁判で有罪が確実なようで、法的にも社会的にも更に厳しい“罰と制裁”が待っている。「ひときわ高い倫理観や順法意識が求められる学校の先生がなぜ覚せい剤を?」というのが世間の素朴な疑問だろう。しかし、動機などは裁判で明らかにされるとしても、「司法のアプローチだけでは薬物犯罪者の更生には限界がある」と指摘する声もある。そう主張するダルク(薬物依存症の民間リハビリ施設)の視点から、薬物事犯の更生について考えた。
            
 ▼「薬物に出合ったことが間違い
 「薬物(覚せい剤)は相手を選ばない。社長やヤクザ、ホームレスであろうと、きっかけがあれば心のすき間に忍び込み、依存症に陥らせる。本当に必要なのは刑務所より医療と福祉の下支えなのに、この国では罰を課すだけで肝心な病気の治療・回復はなおざり、これが薬物事犯の更生を難しくしてきた」
 自身も覚せい剤依存症者で、ダルク創設者の近藤恒夫氏(71)=日本ダルク代表=は薬物事件で世間に広く流布する「意志の弱いダメ人間」「社会の厄介者」と切り捨てる風潮に異議を唱える。社会正義を振りかざすだけのメディア報道にも批判的だ。今回の事件で、教員という社会的な属性や古臭い「聖職者」観がことさら強調されることに複雑な思いがぬぐえない。
 「ダルクの立場から言わせてもらえば、たまたま薬物に出合ったことが間違い、それが不幸だったということ。法を犯して覚せい剤を使ったことは悪だが、人間性まで悪なわけではない。そこを誤解すると回復の取り組みは成立しなくなる」と近藤氏。文字通り“罪を憎んで人を憎まず”の教えに立つ深い人間観をうかがわせる。
 ▼「今度こそ捕まらず、うまくやろう
 近藤氏によれば、隔離空間の刑務所では規則と管理で強制的に“断薬”させることで、受刑者は肉体の健康は取り戻せる。しかし、根本にある依存症へのケアが手つかずのため、出所すれば再び使用して刑務所に舞い戻るケースが後を絶たない。このため、薬物事犯の再犯率は実に4割を超える。
 刑務所は「国の予算で、わざわざ受刑者をまたクスリを使える体にして社会に戻している」(近藤氏)と手厳しい。受刑生活を繰り返すことで薬物事犯の受刑者同士が刑務所内で「次は捕まらず、うまくやろう」と密売ルートの情報を交換し合い、単純自己使用から「売人」に変身して覚せい剤を巷に汚染する側にまわり、罪をさらに重くするという。
 しかし、国も手をこまねいているわけではない。薬物事犯を中心に再犯者であふれるようになったことから、最近は刑務所で盛んに覚せい剤の離脱プログラム教育を組むようになった。その際には、各地のダルクメンバーらが地方の刑務所にメッセージに入り、自分の体験談を話したり、模擬ミーティングを開くようになった。
 依存症ケア先進国の米国では、「薬物事犯者には罰を与えるより福祉の下支えが必要」という現実的な対応から、薬物事犯を専門に扱う裁判所(ドラッグコート)があり、刑務所ではなく病院やリハビリ施設で治療・回復のプログラムを受けさせる動きが進んでいる。
 日本では昨年、将来のドラッグコート設置につながるものとして期待された「刑の一部執行猶予」制度に関する法案が、政権交代で国会が解散となったことから廃案(参院は通過)となった。問題点はあるとしても、ダルクや家族会では同種制度の確立が待たれている。
 ▼回復したい人を差別なく受け入れ
 ダルクは覚せい剤など薬物に依存し、人生につまづいた人たちの回復を支援して28年になる。多くが公的補助のない自主運営で全国に約70カ所の関連施設があり、毎日数千人が社会復帰を目指して回復プログラムに励んでいる。依存薬物の多様化や入所者の高齢化、精神疾患など重複障害の増加、生活保護頼り…など課題を抱えながらも、つぶれたケースは一つもない。
 最近は芸能界やスポーツ界、政界、法曹界、公務員、大学生などへの覚せい剤汚染がメディアで社会問題として取り上げられるようになった。不良外国人らの暗躍などで覚せい剤入手のハードルが低くなり、かつての暴力団周辺や風俗関係から、一般社会にまで出まわるようになって久しい。
 それだけにダルクに漂着する人たちの職種もさまざまだ。ダルクは回復したいと門を叩いた人を一切、差別しないで受け入れてきた。社会の中間施設ながらも、ダルクが自助グループをモデルにした欧米型の治療共同体の原理を基本とするからで、平等主義と匿名主義の原則が守られている。
 報道によれば、今回逮捕された元教員は上司である校長に相談し、自分から警察に出頭した。薬物事犯の多くが覚せい剤による追跡妄想などで狂った揚げ句、自分から警察署に飛び込むパターンとは異なる。覚せい剤への親和性はうかがい知れないが、受け皿や周囲のサポートがあれば十分に回復し、社会における更生に期待をうかがわせる。
 ▼「自助グループに通え」の判決を
 現在、全国のダルク一の入所者約80人を受け入れている鹿嶋市の潮騒ジョブトレーニングセンター。ダルクで回復して10年の節目を迎えた代表の栗原豊氏(70)は、過去の暴力団時代には医師や自衛隊員らに覚せい剤を供給していたという。「あの頃でさえ、それだけ薬物がまん延していた。社会のステータスや職業は一切関係が無かった」と振り返る。
 今回の事件について栗原氏は「本人の受け取り方次第。この事件を『人生の底つき』にできれば、覚せい剤をやめる方向に向かっていくだろう」と示唆した。今後開かれる元教員の裁判についても、「裁判官が“あなたは罪を犯したが、その根本は薬物依存症です。刑務所ではなく、自助グループに通って病気の回復を図りなさい”という画期的な判決を出してほしい」と結んだ。

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多様な職種の人たちが集まる潮騒ジョブトレーニングセンター。リハビリプログラムで入所者が俳句づくりに励む=鹿嶋市宮中
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